シード期からシリーズB期までに起きやすい人事トラブルと対策

シード期からシリーズB期までに起きやすい人事トラブルと対策

1. シード期における採用・チーム形成の課題

スタートアップのシード期では、限られたリソースと急速な事業展開が求められる中で、最初の人材採用やチームづくりが重要なポイントとなります。多くの場合、経営者や創業メンバーは自分たちのネットワークを活用して採用を進めますが、この段階ではスキルや価値観のミスマッチが生じやすく、早期離職やチーム内のコミュニケーション不全といったトラブルに発展することがあります。

よくあるケース

例えば、ビジネスモデルがまだ固まっていない段階で即戦力として期待した人材が、想定よりも変化に弱く適応できなかったり、創業者と価値観が異なることで摩擦が生まれたりするケースが見受けられます。また、日本独特の「空気を読む」文化の影響で、本音を言い出しにくく、問題が顕在化しにくい点も課題です。

予防策

このようなトラブルを回避するためには、まず採用時にスキルだけでなくスタートアップ特有のスピード感や変化への適応力を重視することが重要です。さらに、創業者自身が自社のビジョンやミッションを明確に伝え、それに共感できる人材かどうかを見極める面談プロセスを設計しましょう。加えて、オンボーディング期間中に定期的な1on1ミーティングを設けることで、早期のミスマッチ発見と修正につなげることができます。

まとめ

シード期は組織の基盤作りとなる大切なフェーズです。適切な人材選定と透明性の高いコミュニケーション体制を築くことで、後々の人事トラブルを未然に防ぐことが可能となります。

2. 役員・創業メンバー間のトラブルとエクイティの扱い

日本スタートアップ特有の課題:意見の相違と信頼関係

シード期からシリーズB期にかけて、共同創業者や役員間で起こりやすい最大の人事トラブルは「経営方針やビジョンに対する意見の相違」です。日本では、長期間にわたる信頼関係を重視する傾向が強く、表立った対立を避ける文化的背景があります。そのため、初期段階で意見の食い違いが表面化しにくく、水面下で不満が蓄積されやすいという特徴があります。

エクイティ分配を巡るトラブル

また、日本のスタートアップにおいては、共同創業者同士でエクイティ(株式)の分配比率を巡るトラブルも頻繁に発生します。特に「貢献度」や「将来の役割」に対する認識違いから、不公平感が生じやすくなります。下記の表は、よく見られるエクイティ分配に関するトラブル例とその原因を示しています。

トラブル例 主な原因
創業後の貢献度格差による不満 役割分担やKPIが曖昧
離脱した創業者への株式帰属問題 ベスティング契約が未整備
追加資金調達時の希薄化に対する不安 資本政策への理解不足

日本独自の商習慣・文化背景を踏まえた対策

1. 意見交換・合意形成プロセスの明確化

日本では根回し(事前調整)が重視されるため、定期的なオフサイトミーティングや合宿形式で率直なディスカッションの場を設けることが有効です。また、議事録作成や意思決定プロセスを文書化し、「言った言わない」のリスクを低減しましょう。

2. エクイティ分配ルールの明文化とベスティング導入

初期段階からエクイティ分配ルールを明文化し、「ベスティング(権利確定)制度」を導入することが重要です。これにより、途中離脱時にも合理的な対応が可能となり、公平性・透明性が担保されます。加えて、日本独自の終身雇用的価値観にも配慮しつつ、将来的な貢献度変動にも柔軟に対応できる設計が求められます。

具体的な対策例
  • KPI・役割ごとの評価制度策定と運用
  • 投資契約書内でエクイティ帰属条件を明記
  • 外部専門家(弁護士・会計士)による第三者チェック導入

このような対策を講じることで、役員・創業メンバー間の信頼醸成と持続的成長につながります。

シリーズA期における成長と人事制度の未整備による摩擦

3. シリーズA期における成長と人事制度の未整備による摩擦

シリーズA期で加速する組織拡大の現実

シリーズA期は、資金調達が成功し、事業拡大や新規メンバーの採用が一気に進むタイミングです。しかし、この急激な成長により、創業初期には明確でなかった人事制度や評価基準が浮き彫りとなり、社内で様々な摩擦を生むことがよくあります。特に、日本企業では「暗黙の了解」や「阿吽の呼吸」に頼っていた部分が表面化しやすく、既存メンバーと新規メンバー間の認識ギャップ、評価への不満、キャリアパスの不透明さなどが顕在化しやすい局面です。

人事トラブルを招く典型的な要因

1. 評価基準の不明確さ

成長ステージに入ると多様なバックグラウンドを持つ人材が集まり、「何をどのように評価するか」が曖昧なままだと公平性に疑問が生じます。これによりモチベーション低下や離職リスクが高まります。

2. 権限・責任分担の曖昧さ

役割分担や意思決定プロセスが整理されていないことで、現場で混乱が起きたり、責任の押し付け合いになるケースも見られます。

効率的な制度設計のポイント

1. シンプルかつ透明性の高い評価制度導入

最初から完璧を目指す必要はありませんが、「評価項目」「評価者」「評価サイクル」を簡潔に整理し、全社員へ説明会やワークショップ等で周知徹底することが重要です。

2. ジョブディスクリプション(職務記述書)の明文化

各ポジションごとに期待される役割・成果・行動指針を文書化し、採用時・異動時に必ず確認する運用を徹底しましょう。日本企業でも近年重視され始めている手法です。

3. 定期的なフィードバックと双方向コミュニケーション体制

年1回の評価だけでなく、四半期ごとの1on1面談やフィードバック機会を設けることで、不満やズレを早期に発見し是正できます。特に組織拡大初期は経営陣自ら積極的に関与すると効果的です。

まとめ

シリーズA期は「人事制度構築元年」とも言える重要フェーズです。日本独自の文化にも配慮しつつ、公平性と納得感ある仕組み作りを進めることで、その後の成長ドライブにつながります。

4. コンプライアンス・労務リスクの認識不足

スタートアップがシード期からシリーズB期に進む過程で、コンプライアンスや労務関連のリスク認識が十分でないことは、重大な人事トラブルにつながる要因となります。特に日本独自の法制度や文化的背景を踏まえた対応が求められるため、以下の点に注意が必要です。

日本における主な労務リスクの例

リスク項目 内容 発生しやすいタイミング
労働基準法違反 残業代未払い・休日出勤等の管理不備 従業員数増加時
就業規則未整備 組織拡大時にルールが曖昧でトラブル発生 10名以上雇用時(法令上義務)
ハラスメント対策不足 パワハラ・セクハラ防止体制不備による訴訟リスク 多様な人材採用時
社会保険未加入 適切な手続き漏れによる行政指導や罰則リスク 役職者採用・フルタイム雇用増加時

リスクヘッジの具体策

  • 就業規則・賃金規程の早期整備:社員数が10名を超える前から専門家と相談し、自社に合った規則策定を推進しましょう。
  • 社内教育・研修の実施:管理職層だけでなく全社員対象に、労働法やハラスメント防止研修を定期開催することで意識向上を図ります。
  • 外部専門家との連携強化:社会保険労務士や弁護士と顧問契約を結び、判断に迷う場面では早めに相談する体制を構築しましょう。
  • コンプライアンスチェックリスト運用:以下のようなチェックリストを活用し、定期的な自己点検を行うことも有効です。
チェック項目例 確認頻度
就業規則・賃金規程の最新化状況 年1回以上
残業時間・給与計算の正確性確認 月次/四半期毎
ハラスメント窓口設置状況と周知徹底 年1回以上
社会保険手続きの完了状況確認 新規採用時/年1回総点検

まとめ:早期対応が成長への鍵

急成長フェーズでは本業優先となりがちですが、人事・労務分野のコンプライアンス体制構築は企業価値維持の基礎です。上記対策を参考に、リスクヘッジを実践していくことが健全な組織成長につながります。

5. シリーズB期に向けたプロフェッショナル人材の獲得とマネジメント課題

資金調達拡大に伴う人材ニーズの変化

シリーズB期に差し掛かるスタートアップでは、資金調達が順調に進む一方で、事業成長を加速させるためにプロフェッショナル人材の採用が不可欠となります。特に経営層や専門性の高いポジション(CFO、CTO、マーケティング責任者など)の獲得が求められ、市場競争も激化しています。しかし、高度なスキルや経験を持つ人材の採用には、報酬面や役割期待のミスマッチ、採用後のオンボーディングトラブルが頻発しやすい状況です。

カルチャーフィットの重要性とその課題

シード期から在籍しているメンバーは会社独自のカルチャーを築いてきましたが、新たに加わるプロフェッショナル人材は大企業出身者も多く、価値観や働き方の違いから摩擦が生じやすくなります。これにより既存社員との信頼関係構築やエンゲージメント低下につながるケースも見られます。日本企業特有の「阿吽の呼吸」や「空気を読む」文化への適応もポイントとなり、単なるスキルマッチだけでなくカルチャーフィットが極めて重要です。

対処法:採用・マネジメントプロセスの最適化

  • 選考時点でカルチャーフィットを重視した評価基準を導入する
  • 入社初期のオンボーディングプログラムを充実させ、既存メンバーとのコミュニケーション機会を増やす
  • 定期的な1on1ミーティングやフィードバック機会を設けて心理的安全性を確保する
まとめ:人材戦略と組織成長の連動が鍵

シリーズB期以降の拡大フェーズでは、「誰を」「どのように」迎え入れるかが事業成否を左右します。高度人材採用による組織パフォーマンス最大化には、カルチャーフィットの徹底と柔軟なマネジメント体制構築が不可欠です。資金調達と同様、人事面でも先手先手で戦略的対応を行いましょう。

6. 成長ステージ別 人事トラブルを防ぐための戦略的アプローチ

シード期:組織基盤の構築とコミュニケーション重視

シード期は、少人数かつ創業メンバー中心で進行するため、価値観やビジョンの共有が重要です。この段階では、明確なミッション・バリューを定義し、定期的なミーティングや1on1を通じて信頼関係を強化しましょう。また、職務分掌や報酬体系などの基本ルールも早い段階で文書化しておくことが、後々の誤解や対立を未然に防ぐポイントとなります。

アーリー期:採用・評価プロセスの整備と透明性

組織規模が拡大し始めるアーリー期では、新規採用や既存メンバーの役割変更による摩擦が発生しやすくなります。ここでは、採用基準・評価制度・昇給ルールを明文化し、全メンバーへの説明責任を果たすことが不可欠です。また、日本特有の「空気を読む」文化に配慮しつつも、オープンなフィードバック文化を育成することで、問題の芽を早期に摘み取ることが可能です。

シリーズA期:中間管理職の育成と権限委譲

シリーズA期になると、中間管理職層(マネージャー)の役割が拡大します。ここでは、リーダー研修やマネジメントスキル向上施策を導入し、経営陣から現場への適切な権限委譲を図りましょう。加えて、「報・連・相(報告・連絡・相談)」の徹底や、コンプライアンス教育など日本企業特有のガバナンス意識も強化する必要があります。

シリーズB期:多様性への対応と組織カルチャーの再設計

シリーズB期では、多様なバックグラウンドを持つ人材が増え、組織文化の統一が課題となります。この段階では、ダイバーシティ推進施策やウェルビーイング施策など、多様性を尊重した働き方改革が求められます。また、経営理念・行動指針の再確認や浸透活動を通じて、新旧メンバー間の一体感醸成にも取り組みましょう。

フェーズ横断で実践したい継続的アクション

各成長フェーズに共通して重要なのは、「振り返り」と「改善」のサイクルを回し続けることです。定期的なエンゲージメントサーベイ、人事データ分析、そして経営層と現場との双方向コミュニケーションチャネルの維持が、人事トラブル未然防止につながります。外部専門家(社会保険労務士等)とのネットワーク構築も積極的に活用し、自社だけで抱え込まず、外部視点も取り入れる柔軟さが日本市場では特に重要です。