1. 副業・兼業人材の労働契約の基本
副業・兼業とは?
近年、日本では「働き方改革」の推進により、副業や兼業を認める企業が増えています。副業は本業以外で収入を得る活動、兼業は複数の仕事を並行して行う働き方を指します。どちらも多様なキャリア形成や収入源の確保に役立つため、注目が集まっています。
副業・兼業人材が結ぶ主な労働契約の種類
契約形態 | 特徴 | メリット | 注意点 |
---|---|---|---|
正社員(正規雇用) | フルタイム勤務、無期雇用 | 安定した収入と社会保険完備 | 就業規則による副業禁止が多い |
アルバイト・パート(非正規雇用) | 短時間勤務、時給制が多い | 柔軟な勤務時間設定が可能 | 社会保険加入条件に注意が必要 |
契約社員 | 有期雇用、契約期間満了で終了 | 専門性を活かせることが多い | 契約更新や終了時の条件確認必須 |
業務委託(フリーランス) | 雇用契約ではなく委託契約、成果報酬型が主流 | 自由度が高く複数案件並行しやすい | 労働法や社会保険の対象外となる場合あり |
一般的な契約内容とポイント解説
- 就業時間・場所:副業の場合、本業との重複や過重労働にならないよう配慮が必要です。
- 報酬・給与:時給制や月給制、または出来高払いなど、契約形態によって異なります。
- 副業届出義務:本業先の就業規則で副業申告が必要な場合があります。違反すると懲戒処分につながる可能性も。
- 秘密保持義務:競合他社での就労や情報漏洩に関する条項が含まれることがあります。
- 社会保険加入要件:週20時間以上勤務など一定条件を満たす場合、副業先でも社会保険加入義務が発生します。
契約時にチェックしたい注意点
- 本業との兼ね合い:本業先の許可や就業規則の確認は必須です。
- 税金面の手続き:副収入には確定申告が必要になるケースがあります。
- トラブル防止策:労働条件通知書や契約書を必ず書面で取り交わしましょう。
2. 就業規則と副業の両立ルール
就業規則における副業容認や禁止規定とは?
近年、日本でも「働き方改革」が進み、副業・兼業を希望する労働者が増えています。しかし、会社ごとの就業規則によって、副業が認められているかどうかは大きく異なります。多くの企業では、下記のようなパターンが見られます。
就業規則の内容 | 具体例 |
---|---|
原則禁止 | 「会社の許可なく副業をしてはならない」など明確に禁止されている |
条件付き容認 | 「事前申請し、承認を得た場合のみ可能」「本業に支障がない範囲で認める」など |
原則容認 | 「社会通念上問題のない範囲で自由に副業可」など柔軟な対応 |
トラブル防止のための実務対応
副業を認める場合にも、企業側・従業員側双方に注意点があります。トラブル防止のためには、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 【企業側】就業規則や社内ルールで「副業可能範囲」「申請・報告義務」「守秘義務」など具体的なガイドラインを明示すること。
- 【従業員側】副業先で得た情報を本業に持ち込まない、本業時間中に副業しないなどモラルを守ること。
よくあるトラブル事例と予防策
トラブル事例 | 予防策 |
---|---|
本業への支障(遅刻・欠勤) | 副業時間や日数に制限を設ける、健康管理を徹底する |
情報漏洩や競合他社での勤務 | 就業規則で禁止項目を明示し、誓約書を交わす |
企業・個人双方の視点から考えるポイント
企業側のメリット・デメリット
- メリット:社員のスキルアップ、新しいネットワーク形成、採用力向上など
- デメリット:労働時間管理が複雑化、本業への影響リスクなど
個人側のメリット・デメリット
- メリット:収入源の分散、キャリア形成、多様な経験獲得など
- デメリット:過重労働リスク、就業規則違反による懲戒リスクなど
このように、就業規則と副業両立ルールは企業・個人双方にとって重要な課題です。制度やルールを正しく理解し、安全かつ円滑な副業ライフを目指しましょう。
3. 雇用形態ごとの社会保険の取り扱い
正社員の場合
正社員として雇用される場合、社会保険(健康保険・厚生年金保険・雇用保険)の加入が原則として義務付けられています。副業や兼業をしている場合でも、主たる勤務先でこれらの社会保険に加入することになります。
保険種類 | 加入義務 | ポイント |
---|---|---|
健康保険 | あり | 標準報酬月額に基づき算定される |
厚生年金保険 | あり | 勤務時間や日数によっては例外もあり |
雇用保険 | あり | 週20時間以上勤務が条件 |
パート・アルバイトの場合
パートやアルバイトでも、一定の条件を満たせば社会保険への加入が必要となります。特に「週の所定労働時間が20時間以上」「月額賃金が8.8万円以上」などがポイントです。
条件 | 健康保険・厚生年金加入要否 | 雇用保険加入要否 |
---|---|---|
週20時間以上勤務・賃金8.8万円以上等を満たす場合 | 加入必要 | 加入必要 |
上記未満の場合 | 加入不要(任意継続等は可) | 加入不要 |
業務委託(フリーランス・個人事業主)の場合
業務委託契約で働く場合は、原則として会社の社会保険には加入できません。自分で国民健康保険や国民年金に加入する必要があります。また、雇用保険も適用外となります。
保険種類 | 自分で手続きが必要か? |
---|---|
国民健康保険/国民年金 | 必要(市区町村役場で手続き) |
雇用保険・労災保険(請負先経由) | 通常なし(一部特例あり) |
まとめ:雇用形態別 社会保険加入早見表
雇用形態 | 健康保険・厚生年金 (会社経由) |
雇用保険 (会社経由) |
国民健康保険・国民年金 (自分で) |
---|---|---|---|
正社員 | ◯ 加入必須 | ◯ 加入必須 | – 不要(例外除く) |
パート/アルバイト(条件満たす場合) | ◯ 加入必要 | ◯ 加入必要 | – 不要 |
パート/アルバイト(条件未満) | – 不要 | – 不要 | ◯ 必要 |
業務委託/フリーランス等 | – 不可 | – 不可 | ◯ 必要 |
日本で副業・兼業を始める際は、自身の雇用形態ごとに社会保険の取り扱いをしっかり確認しましょう。不明点は社会保険労務士や各種窓口に相談するのがおすすめです。
4. 副業・兼業時の税金と社会保険料の手続き
Q1. 副業・兼業を始めた場合、確定申告は必要ですか?
副業や兼業で得た収入が年間20万円を超える場合、原則として確定申告が必要です。会社員の場合でも、副業収入が20万円以下なら申告不要ですが、それを超えると必ず手続きしましょう。
【副業の確定申告が必要なケース】
本業 | 副業収入 | 確定申告の要否 |
---|---|---|
会社員 | 20万円以下 | 不要(例外あり) |
会社員 | 20万円超 | 必要 |
自営業 | すべての所得 | 必要 |
Q2. 副業に関する所得税や住民税はどのように支払いますか?
副業収入も課税対象となり、所得税・住民税が発生します。確定申告後、住民税は翌年度から市区町村より請求されます。本業の会社に副業を知られたくない場合は、住民税の「自分で納付(普通徴収)」を選択することも可能です。
【住民税の納付方法】
区分 | 内容 |
---|---|
特別徴収 | 本業給与から天引き 会社にも副業分が通知される可能性あり |
普通徴収 | 自宅に納付書が届き、自分で納付 会社に知られにくい |
Q3. 副業先で社会保険料はどうなりますか?ダブル加入になるのでしょうか?
複数の勤務先で所定労働時間・日数が一定基準を満たした場合、両方の勤務先で社会保険加入義務が発生することがあります。2022年10月からはパート・アルバイトでも条件によって社会保険加入対象となるため注意しましょう。基本的には主たる勤務先で加入し、副業先では雇用保険など一部のみ適用の場合もあります。
【社会保険加入条件(参考)】
保険種類 | 加入基準(一例) |
---|---|
健康保険・厚生年金保険 | 週20時間以上勤務、月額賃金8.8万円以上など(2024年現在) 複数社合算も検討対象に(マルチジョブホルダー制度) |
雇用保険 | 週20時間以上勤務、31日以上雇用見込みなど 複数事業所合算の場合もあり(マルチワーク制度) |
Q4. 副業先で源泉徴収票はどう扱えばいいですか?
本業・副業それぞれから源泉徴収票を受け取り、確定申告時に全て提出します。給与所得者であれば、各社から発行された源泉徴収票をまとめて申告書に記載してください。
Q5. 扶養控除や配偶者控除への影響はありますか?
ご自身や家族が扶養控除や配偶者控除を利用している場合、副業による所得増加で控除対象外となるケースがあります。特にご家族の健康保険扶養認定は年収130万円未満等の基準があるため注意しましょう。
5. 副業・兼業人材が気をつけたい法的リスク
秘密保持義務について
副業や兼業を行う際、元の勤務先や新しい職場の情報を外部に漏らさないことは非常に重要です。多くの企業では、雇用契約書や就業規則で「秘密保持義務」が定められています。副業先でも同様のルールがある場合がほとんどなので、両方の職場で守るべき情報をしっかり確認しましょう。
主な秘密保持事項
内容 | 具体例 |
---|---|
顧客情報 | 顧客リスト、取引内容など |
技術情報 | 開発中の商品、システム設計図など |
営業戦略 | 販売計画、価格設定など |
競業避止義務とは?
「競業避止義務」とは、現在または過去に勤務していた企業と同じ事業分野で競合する仕事を行わないというルールです。副業・兼業を始める前に、自分の雇用契約書や就業規則にこの義務が記載されていないか必ず確認しましょう。
競業避止義務が問題となるケース例
元の職場の業種 | 副業・兼業先の業種 | リスクの有無 |
---|---|---|
IT企業(システム開発) | 他社IT企業(同様サービス) | 高い(競合関係) |
飲食店(和食) | 飲食店(洋食) | 中程度(内容による) |
アパレル販売員 | 全く異なる職種(事務職など) | 低い(原則問題なし) |
トラブル回避のために事前に準備すべきこと
- 雇用契約書・就業規則の確認:副業や兼業が禁止されていないか、秘密保持や競業避止の条項がないか必ずチェックしましょう。
- 会社への申告:副業・兼業を始める際は、念のため会社へ申告し許可を得ておくと安心です。
- 仕事内容の整理:本業と副業で扱う情報や仕事内容が重複しないように整理し、万一のトラブル防止につなげましょう。
- 証拠保全:後々トラブルになった時のため、メールやチャットなどで上司とのやり取りを保存しておくこともおすすめです。
まとめ:法的リスクを理解し安全な副業・兼業活動を!
日本では副業・兼業人材が増える一方で、法的トラブルも少なくありません。事前にルールやリスクを理解し、「知らなかった」では済まされない状況にならないよう注意しましょう。
6. よくあるQ&A:実務上の注意点と最新動向
副業・兼業に関する労働契約のポイント
副業や兼業を希望する社員が増えている中で、企業も適切な対応が求められています。ここでは、読者から寄せられた実際の質問やケーススタディをもとに、よくある労働契約の疑問点とその解決策をまとめます。
Q1: 副業先との労働契約書はどんな内容に注意すべき?
副業・兼業人材の労働契約書では、以下の点が特に重要です。
項目 | 注意点 |
---|---|
就業時間 | 本業との重複・過重労働にならないよう管理が必要です。 |
競業避止義務 | 同業他社での副業は制限される場合があります。 |
守秘義務 | 情報漏洩防止のため、明確に記載しましょう。 |
社会保険加入要否 | 週20時間以上の場合、副業先でも社会保険適用になる可能性あり。 |
Q2: 社会保険はどちらの会社で加入すればいい?
「社会保険の二重加入」について多く質問が寄せられます。基本的には、勤務時間や賃金など条件を満たした会社(主たる事業所)で社会保険に加入します。複数の会社で条件を満たす場合、「より報酬が高い方」や「勤務時間が長い方」が主となります。
ケース | 社会保険の取り扱い例 |
---|---|
A社:週30時間勤務 B社:週10時間勤務 | A社で社会保険加入 |
A社・B社ともに週25時間勤務 報酬A社>B社 | A社で社会保険加入 |
A社・B社ともに週25時間勤務 報酬同額の場合 | 原則、本人が選択可能(事前相談推奨) |
Q3: 副業先で発生する労災はどうなる?
副業中の労災事故についても質問が増えています。副業先ごとに労災保険への加入が必要です。万一、両方の仕事を同日にしていた場合には、「どちらの職場か」によって適用される保険が異なります。
【ポイント】
- 副業先でも必ず労災保険手続きを確認しましょう。
- 正社員として本業がある場合でも、副業分は別途管理されます。
Q4: 副業申請を断られた場合、どう対応すればいい?
会社によっては「就業規則」で副業禁止としている場合があります。その場合は、理由を確認し、人事部門と相談することが大切です。最近は柔軟な運用へ見直しを行う企業も増えていますので、最新動向をチェックしましょう。
最新動向:法改正や行政ガイドラインにも注目!
2020年以降、「副業・兼業促進に関するガイドライン」が厚生労働省から発表されています。また、各種助成金制度や新しい働き方への支援策も登場しています。今後も法改正や判例変更など、最新情報を定期的に確認しましょう。