研究職としての日々と壁
大学院を卒業した後、私は大学や企業の研究職としてキャリアをスタートさせました。毎日が新しい発見と学びに満ちていて、専門分野の最先端に触れることができる環境は非常に刺激的でした。論文執筆や実験、プロジェクト管理など、地道な努力が求められる一方で、自分の知識や技術が社会の役に立つという実感もありました。しかし、次第に「自分は本当にこのままでいいのだろうか」というモヤモヤを感じ始めました。
確かに研究職には安定感や専門性の高さという魅力がありますが、一方で閉塞感も否めませんでした。自分の成果が社会へ直接的に影響を与える機会は少なく、長期的なビジョンや地域とのつながりを感じることが難しかったのです。特に地方出身者として、「地方だからこそできる価値創造」に興味を持ち始めたことが、その違和感をより大きくしました。日々のルーティンワークや評価制度にも疑問を持つようになり、いつしか「自分らしく働くとは何か」「もっと人や地域と関わりながら成長できないか」と考えるようになりました。
2. 地方創生への興味の芽生え
研究職として日々研究に没頭していた私ですが、ある時ふと、自分の仕事が社会や地元にどんな影響を与えているのか考えるようになりました。大都市での生活やキャリアアップを目指す中、故郷の町が人口減少や高齢化、地域産業の衰退といった課題に直面している現実に気づきました。その時、「自分が研究で得た知識や経験を活かして、何かできることはないだろうか」と考えるようになったのです。
なぜ地方創生に関心を持つようになったのか
きっかけは、地元へ帰省した際に感じた「変わらない風景」と「静まり返る商店街」でした。昔は賑わっていた場所が、今ではシャッター通りとなり、子供の頃お世話になったお店も次々と閉店していました。「このままでは地元がなくなってしまう」。そんな危機感が芽生えました。
地元や社会課題と向き合う中で湧いてきた思い
研究職として培った分析力で、地域が抱える課題を整理してみました。
課題 | 現状 | 感じたこと |
---|---|---|
人口減少 | 若者流出、高齢化率上昇 | 持続可能な地域運営が難しい |
産業衰退 | 後継者不足、新規事業創出困難 | 新しいビジネスモデルが必要 |
コミュニティ希薄化 | イベント減少、人との繋がり希薄化 | 人と人をつなぐ場づくりが大切 |
こうした現実に直面する中で、「自分にも何かできるはず」「研究だけでは解決できないリアルな課題に挑戦したい」という想いが強くなりました。地方創生という言葉には、“地域を元気にする”という単純な意味以上に、“一人ひとりが役割を持ち、新しい価値を生み出す”という深い意義を感じています。この想いこそが、私が地方創生ベンチャーで起業しようと思った原点です。
3. ベンチャー起業への決意
安定した研究職を手放す――それは、私にとって人生最大の決断でした。大学院を卒業してから約10年間、研究者としてのキャリアを積み重ね、周囲からも「安定した職業」として一目置かれていました。しかし、地方で暮らしながら「このままでいいのだろうか」という思いが、年々強くなっていったのです。
安定を捨てる勇気
研究という仕事は知的好奇心を満たしてくれる一方で、「社会に直接貢献できている実感」が薄かったことが、心のどこかに引っかかっていました。そんな時、地元で開催された地方創生イベントに参加し、地域の人々が抱える課題や想いに触れたことで、「自分のスキルでこの地域をもっと元気にしたい」と強く感じました。この出来事が、私の背中を大きく押してくれたのです。
家族・周囲の反応
正直に言えば、家族や友人たちは最初、とても驚いていました。「本当に大丈夫?」「せっかく築いたキャリアがもったいない」と心配する声も多かったです。でも、自分の気持ちを丁寧に伝え、一緒に地方創生ベンチャーのビジョンを語り合う中で、徐々に理解と応援へと変わっていきました。
自分自身との対話
「失敗してもいい」「挑戦すること自体が価値になる」――そんな風に自分自身と何度も向き合い、最終的には「やらずに後悔するより、やって後悔したい」と覚悟を決めました。こうして私は、研究職から一歩踏み出し、新しいフィールドで挑戦する道を選んだのです。
4. 起業準備と現実のギャップ
研究職として積み上げてきた経験と知識を活かし、地方創生ベンチャーの起業を決意したものの、実際に事業を立ち上げるプロセスは想像以上に厳しいものでした。理想のビジョンを掲げていた私ですが、起業準備の段階でいくつもの「現実の壁」に直面することになったのです。
事業計画:机上の空論と現場のリアル
最初にぶつかったのが事業計画の作成でした。研究職時代は論理的な思考やデータ分析に自信がありましたが、ビジネスの世界では「理論」だけでは通用しません。地方ならではの市場規模や需要予測、行政との連携など、未知の要素が多すぎて計画は何度も書き直す羽目になりました。
資金調達:思い描いていたよりも高いハードル
資金調達もまた大きな壁でした。下記は理想と現実の主なギャップをまとめた表です。
項目 | 理想 | 現実 |
---|---|---|
銀行融資 | 熱意や計画性を評価されすぐに借りられる | 実績ゼロでは審査が厳しく、担保や保証人も必要 |
補助金・助成金 | 申請すれば簡単に採択される | 競争率が高く、提出書類や審査基準が複雑 |
クラウドファンディング | SNS発信で支援者が集まる | 認知度不足で苦戦し、広報活動にも時間がかかる |
人脈づくり:地域社会との距離感
都会とは違い、地方で新参者がネットワークを築くことは容易ではありませんでした。「よそ者」として最初は警戒されることも多く、地元イベントへの参加や個別訪問を地道に重ねて少しずつ信頼関係を築いていきました。
理想と現実、その狭間で学んだこと
机上のプランニングと現場で体感するリアル。そのギャップに戸惑いつつも、一歩一歩進んだ日々は今でも私の財産です。「失敗してもいいからやってみよう」と自分自身に言い聞かせながら、小さな成功体験を積み重ねていきました。こうした試行錯誤こそが、地方創生ベンチャーならではの醍醐味だと今では感じています。
5. 地方との出会いと共創
大学院で研究職を続けていた私が、なぜ地方創生ベンチャーで起業する道を選んだのか。その答えは、実際に地方に飛び込んでみたからこそ得られた「出会い」と「共創」の体験にあります。
未知の土地での最初の一歩
はじめて地方の小さな町を訪れたとき、私は正直、不安だらけでした。研究室という閉ざされた空間とはまるで異なる、人と人との距離が近いコミュニティ。そこで出会ったのは、地元の農家さんや商店主、移住してきた若者たち。彼らは「外から来た人」にもとてもオープンで、私の話を真剣に聞いてくれました。この温かさが、私の心を動かした最初のきっかけです。
地域課題とのリアルな向き合い
現場に足を運ぶうち、人口減少や高齢化による担い手不足、産業の衰退など、「数字」では分からなかったリアルな課題と向き合うことになりました。しかし同時に、小さな成功や新しいアイディアが生まれる瞬間にも立ち会うことができました。例えば、地域資源を活用した新商品開発ワークショップでは、高校生やシニアの方々が自由な発想で意見を出し合い、大人も子どもも一緒になって試作品づくりに挑戦する姿が印象的でした。
共創から生まれる手応え
「よそ者」の私だからこそ気づけたことや提案できた視点が、地域の皆さんと交わることで新しいプロジェクトへと形になっていきました。一人ひとりの想いや経験が重なり合うことで、一人では決して到達できない成果につながる――この「共創」の体験は、起業家としてだけでなく、一人の人間としても大きな学びとなりました。
こうした現場での日々は、私自身にも変化をもたらしました。自分の専門性やスキルを活かすだけでなく、人と本音で向き合い、ともに未来を描くこと。それこそが地方創生ベンチャーとして活動する醍醐味なのだと、今では確信しています。
6. これからの展望とメッセージ
地方創生ベンチャーを立ち上げた今、私は「地域に根ざした価値づくり」をさらに深めていきたいと考えています。研究職で培った分析力や課題発見力は、地域社会の複雑なニーズを見極めるうえで大きな武器になっています。そして、この経験を活かしながら、地元の方々と共に新しいプロジェクトやサービスを形にしていくことが、私のこれからのミッションです。
ビジョン:地域から未来をデザインする
地方にはまだまだ埋もれた魅力や資源が数多くあります。それらを掘り起こし、新しい価値として発信していくことで、地域経済やコミュニティの活性化につなげていきたいです。今後は、他分野との連携や若手人材の育成などにも挑戦し、「地方だからできるイノベーション」を生み出していきます。
同じように迷っているあなたへ
キャリアチェンジや起業は、不安も多く勇気がいる選択かもしれません。私自身も何度も悩みました。しかし、一歩踏み出すことでしか見えない景色や、新しい繋がり、学びがあります。小さな一歩でも構いません。自分の「やりたい」という気持ちを大切に、一緒にチャレンジしていきましょう。
最後に
地方創生には、決まった正解がありません。一人ひとりの想いやアイデアが、地域を変えていく力になります。今までの経験を信じて、ぜひあなたらしい道を歩んでください。これからも私自身、現場で学び続けながら、皆さんとともに日本各地の未来をつくっていきたいと思います。