1. 商社マン時代の原体験と転職のきっかけ
私は大学卒業後、日本の大手商社に入社しました。いわゆる「商社マン」として、世界中を飛び回りながら多様なビジネス案件に携わってきました。最初は毎日が刺激的で、グローバルなプロジェクトや日本を代表する企業との取引など、夢に見たような経験ができました。しかし、華やかに見える一方で、現場では想像以上に厳しい交渉や膨大な事務作業、そして成果主義のプレッシャーと常に向き合う日々が続きました。
特に印象的だったのは、新興国との取引で直面した文化や価値観の違いです。現地パートナーとの信頼構築の難しさ、日本本社から求められるスピード感とのギャップなど、机上では学べないリアルなビジネス課題が山積みでした。その度に自分自身の限界と向き合い、「本当に自分がやりたいことは何なのか?」と自問するようになりました。
そんな中、仕事帰りにふと立ち寄ったカフェで偶然出会った保護犬との交流が私の価値観を大きく変えました。それまで利益や効率性ばかり追い求めていた自分が、「社会にとって本当に必要とされるサービスとは何か」を考えるようになったのです。この経験がきっかけとなり、「ペット関連事業で社会課題を解決したい」という起業への想いが芽生え始めました。商社マンとして培ったビジネススキルを活かしつつ、自分自身が心から熱意を持てる領域で挑戦したい――そんな想いが日に日に強くなっていったのです。
2. ペット関連市場に感じた課題意識
商社マンとして多忙な毎日を送っていた私ですが、身近なペット事情に目を向けるようになったのは、自分自身や周囲の同僚が犬や猫などのペットと暮らすようになったことがきっかけでした。日本社会では少子高齢化や共働き世帯の増加が進み、家族のあり方や生活スタイルが大きく変化しています。このような社会的背景の中で、ペットは「家族の一員」として重要な役割を果たす存在となっています。
身近なペット事情への気づき
私自身も共働き家庭であるため、ペットの健康管理や日常のケアに不安を感じることが多々ありました。また、同僚たちとの会話でも「急な出張や残業でペットのお世話ができない」「老犬・老猫の介護が想像以上に大変」など、多くの悩みが共有されていました。こうした現場感覚こそが、私にとって新規事業へのヒントとなりました。
社会的課題とペット産業の関係
| 社会的課題 | ペットとの関わり方への影響 |
|---|---|
| 少子高齢化 | シニア層のペット需要増加、高齢者向けサービスの必要性 |
| 共働き世帯増加 | 日中のお世話代行サービスやテクノロジー活用ニーズ拡大 |
日本独特の人口動態は、ペット関連市場にも大きな影響を及ぼしています。高齢者だけでなく若い共働き世帯にも支持される商品・サービスが求められており、市場全体としても今後さらに成長が期待されています。
業界動向と市場リサーチ体験記
起業を意識し始めた頃から、私は徹底した市場リサーチを行いました。国内外の統計データや業界団体レポートだけでなく、実際にペットショップや動物病院へ足を運び、現場スタッフや飼い主さんから直接ヒアリングも行いました。その結果、「飼育負担軽減」「健康・福祉」「テクノロジー活用」の3つが今後注目すべきキーワードであることを実感しました。
市場調査で得られた主なインサイト
- 都市部ほどペット関連サービス利用率が高い傾向
- オンライン診療・見守りカメラなどIT活用ニーズ増加
- 高齢者単身世帯では散歩代行や介護支援サービスへの期待大
このようなリアルな声とデータをもとに、自分だからこそ提供できる価値は何かを模索し始めました。次回は、具体的にどんなビジネスプランを描いたかについてご紹介します。

3. ゼロからの準備とビジネスモデル構築
起業準備:商社マンとしての経験をどう活かすか
商社マン時代に培った交渉力や情報収集力は、スタートアップ立ち上げにも大いに役立ちました。しかし、会社という後ろ盾がない状態では、全て自分で判断し、動く必要があります。特に日本の起業文化では、「失敗=リスク」という考え方が根強く残っており、周囲からも慎重な姿勢を求められる場面が多々ありました。その中で、自分の経験やネットワークを最大限に活用し、小さな成功体験を積み重ねることが重要だと痛感しました。
資金調達の壁と日本独自の課題
ペット関連ビジネスは社会的意義も高い一方で、金融機関やベンチャーキャピタルからの資金調達には苦労しました。日本では「前例主義」が強く、実績のない新規事業への投資は消極的な傾向があります。そのため、自己資金や家族・知人からの少額出資でスタートするケースが多いです。私はクラウドファンディングも活用し、共感してくれる個人投資家との接点づくりにも取り組みました。
事業計画作成:数字と情熱のバランス
事業計画書は「数字」と「想い」の両輪が不可欠です。市場調査や競合分析はもちろん、日本特有の法規制や地域性(ペット飼育率やサービス利用傾向)を丁寧に盛り込みました。また、ペットオーナー目線で“本当に困っていること”を洗い出し、独自性のあるサービス設計を心掛けました。投資家や銀行担当者には論理的説明だけでなく、自分自身の情熱やストーリーもしっかり伝えるように意識しました。
身の周りのネットワーク形成
日本では信頼関係がビジネス成功のカギを握ります。既存の商社時代の人脈だけでなく、異業種交流会や自治体主催のセミナーなどへ積極的に参加し、多様なネットワーク構築を進めました。ペット業界特有の横つながりも重要で、獣医師やトリマー、他スタートアップ経営者との意見交換から得られるリアルな情報は貴重な財産になっています。こうした地道な活動こそが、日本ならではの起業プロセスだと実感しています。
4. スタートアップ初期の壁と乗り越え方
商社マンとしてのキャリアからペット関連スタートアップを立ち上げる過程で、私が直面した「日本社会ならでは」の独特な課題についてお話しします。特に法規制の厳しさ、信用獲得の難しさ、そして人材採用における壁は、事業初期フェーズで避けて通れないものでした。
法規制:予想以上のハードル
日本は動物愛護法や各種衛生基準など、ペット関連ビジネスに対して非常に厳格な法規制があります。具体的には以下のような点で苦労しました:
| 課題 | 具体例 | 突破方法 |
|---|---|---|
| 動物取扱業登録 | 事業開始前に自治体への届け出が必須 | 専門行政書士と提携し、書類作成~現地検査までサポート依頼 |
| 衛生管理基準 | 施設やサービス内容ごとに詳細なガイドラインあり | 管轄保健所と密に連携し、事前相談・現場確認を徹底 |
| 個人情報保護法 | 顧客データ管理体制の構築義務 | SaaS型管理システム導入&スタッフ教育を実施 |
信用獲得:商社マンとの違いを実感
大手商社時代は「会社ブランド」で自動的に信用を得られていました。しかし、スタートアップではゼロから信用を積み上げる必要があります。
私が実践した信用獲得施策:
- 地元自治体や地域団体との共催イベントを通じて顔を売る
- 既存顧客の声・レビューをWebサイトやSNSで積極的に公開
- 有資格者(獣医師・トリマー等)とアドバイザリー契約を結び、「安心感」を訴求する
人材採用:情熱だけでは集まらない現実
ペットビジネスは「好き」だけでは続かず、特に創業初期は多能工型の柔軟な人材が不可欠です。しかし、知名度ゼロの段階では応募すら集まりませんでした。
採用戦略とその成果(表):
| 施策 | 内容・特徴 | 結果/学び |
|---|---|---|
| SNS・口コミ採用強化 | Instagramで社員の日常や業務紹介動画を投稿 | 共感層から初応募獲得につながった |
| 副業・パートタイム活用 | フレキシブルな就業形態を提示 | 本業×副業志向の若手人材確保に成功 |
| インターンシップ制度導入 | 短期間でも現場経験できる枠組み新設 | 将来の正社員候補育成につながった |
このように、日本独自の法制度や社会的信用、人材難という「起業初期ならでは」の壁も、情報収集と外部専門家との連携、自分自身による地道な発信力強化によって一つひとつクリアしてきました。これら実践的なノウハウこそが、今後ペット関連スタートアップを目指す方へのリアルなヒントになると思います。
5. 顧客・ペットとの出会いと成長への手応え
サービスを開始してから、私たちのもとにはさまざまなペットオーナーが訪れてくれるようになりました。特に印象的だったのは、初めて利用されたお客様が「こんなサービスを待っていた」と涙ぐみながら話してくださったことです。その方はご高齢で、愛犬の健康維持や日々のケアについて不安を抱えていました。私たちのスタッフが丁寧にサポートし、結果としてペットも元気になり、お客様から「これからもずっと利用したい」という嬉しい言葉をいただきました。
また、地域密着型の事業だからこそ生まれるつながりも実感しています。あるお客様から「近所の○○さんも紹介しました」と口コミで新しい顧客が増えることも多く、ローカルコミュニティの温かさと信頼関係の大切さを肌で感じています。こうした一つひとつの出会いが、事業を続けるモチベーションにつながっています。
事業開始当初は右も左も分からず、不安だらけでした。しかし、サービスを通じて直接お客様やペットの笑顔に触れ、「この仕事を選んで本当に良かった」と思える瞬間が増えています。売上数字以上に、「ありがとう」「助かった」の声や、リピート率の向上など、現場でしか味わえないリアルな成長実感が何よりも励みになっています。
こうした日々の積み重ねが、地元での信頼獲得やネットワーク拡大にもつながり、スタートアップとして着実に根付いてきていると感じます。今後も、お客様とペットとの出会いを大切にしながら、より良いサービスづくりに努めていきたいと思います。
6. これからの挑戦と“ニッポンの起業家”として
商社マンからペット関連スタートアップへ転身した私にとって、起業の道はまだ始まったばかりです。今後の目標は、日本のペット産業をより豊かにし、社会全体に貢献できるビジネスモデルを築くことです。特に、日本人ならではの「細やかな配慮」や「おもてなし」の精神をサービスやプロダクトに落とし込み、世界にも誇れる日本発のスタートアップを目指しています。
日本企業・社会への想い
これまで大手商社で培ったグローバルな視野と、現場で学んだ現実的な課題解決力。この両方を活かし、「日本らしさ」を大切にした経営を続けていきます。ペットを通じて、人と社会がより豊かにつながる未来をつくる――それが私の願いであり、日本社会への恩返しでもあります。
“ニッポン流”スタートアップ経営者として
日本では、起業家精神やリスクテイクはまだ十分に根付いていない側面もあります。しかし、私は「失敗を恐れずチャレンジする姿勢」と、「周囲との調和・信頼関係」を両立させることで、新しい時代の“ニッポン流”スタートアップ経営者像を体現したいと考えています。仲間や投資家、お客様、そして地域社会とともに成長し、日本発のイノベーションを生み出す覚悟です。
最後に
商社マン時代には想像もできなかった課題や責任感。それでも、「好きなこと」「日本らしさ」「技術と現場主義」を掛け合わせながら、一歩一歩前進していきます。これからも“ニッポンの起業家”として、挑戦の日々を楽しみながら走り続けたいと思います。
