会計ソフトのセキュリティ対策と日本企業に必要なチェックポイント

会計ソフトのセキュリティ対策と日本企業に必要なチェックポイント

1. 会計ソフトのセキュリティリスクとは

日本企業において、会計ソフトの導入は業務効率化やコスト削減を実現する上で欠かせない存在となっています。しかし、近年のデジタル化やクラウド化の進展に伴い、会計ソフトを狙ったサイバー攻撃が増加していることも事実です。特に中小企業ではIT専門人材が不足しがちなため、リスクへの対策が十分でないケースも多く見受けられます。

日本企業が直面しやすい主な脅威

脅威の種類 具体的な内容
不正アクセス ID・パスワードの流出や推測によるログイン、内部不正による情報漏洩
マルウェア感染 ウイルス・ランサムウェアによるデータ暗号化や破壊
サプライチェーン攻撃 取引先や外部サービス経由での侵入例が増加傾向
人的ミス 誤操作や設定ミスによる情報公開・消失
アップデート未実施 脆弱性を突かれることでシステムへの侵入リスク増大

最新のサイバー攻撃動向

最近では「標的型攻撃メール」や「フィッシングサイト」など、巧妙な手口で会計担当者を騙しログイン情報を盗む事例が報告されています。また、クラウド型会計ソフト利用時にもAPI連携部分のセキュリティホールを狙う攻撃が確認されており、従来型のウイルス対策だけでは防げない脅威が増えています。

日本企業にありがちな落とし穴

  • 管理者権限の乱用や共有による内部統制不備
  • 海外製ソフト導入時の日本語対応不足による設定ミス
  • バックアップ体制未整備による障害発生時のデータ損失リスク
セキュリティ強化に向けた第一歩

まずは自社の会計ソフト利用状況と潜在的な脅威を把握し、「何が危険なのか」を明確にすることが重要です。その上で、自社規模や業務フローに合った対策を講じていく必要があります。

2. 日本法規とコンプライアンス要件

会計ソフト運用に影響する主な日本の法規制

日本企業が会計ソフトを安心して利用するためには、国内の関連法規やコンプライアンス要件を正しく理解し、遵守することが重要です。ここでは、特に注目すべき「個人情報保護法(APPI)」と「電子帳簿保存法」について解説します。

個人情報保護法(APPI)

個人情報保護法は、企業が取り扱う個人情報の安全管理義務を定めています。会計ソフトには従業員や取引先の個人情報が含まれるため、下記のポイントに注意が必要です。

チェックポイント 具体的な内容
安全管理措置 アクセス権限管理、パスワード強化、データ暗号化など物理的・技術的対策が求められます。
委託先管理 クラウド型会計ソフトの場合、外部業者への委託先管理体制も確認しましょう。
第三者提供の制限 取引先や外部サービスへ個人データを提供する際は同意取得など適切な手続きが必要です。
漏えい時の対応 万一個人情報が漏えいした場合、速やかな報告・公表・再発防止策の実施が義務付けられています。

電子帳簿保存法

電子帳簿保存法は、会計帳簿や証憑書類の電子データ保存についてルールを定めています。ペーパーレス化を進める企業には必須の知識です。

チェックポイント 具体的な内容
タイムスタンプ付与 改ざん防止のため、電子帳簿や領収書には一定期間内にタイムスタンプを付与する必要があります。
検索性の確保 日付・金額・取引先名などで簡単に検索できる仕組みづくりが必要です。
操作ログの保存 誰がいつどんな操作をしたか記録し、不正防止につなげる必要があります。
システム要件対応 国税庁が定めるシステム仕様要件を満たしている会計ソフトを選ぶことが大切です。

日々の運用で注意すべきポイント

  • 会計ソフト導入時には必ず自社の運用フローと法規対応状況を確認しましょう。
  • アップデートや仕様変更時にも最新の法規制に準拠しているか随時チェックが必要です。
  • スタッフへの教育やマニュアル整備もコンプライアンス維持に有効です。

日本独自の法規制は頻繁に改正されるため、常に最新情報をキャッチアップし、安全で信頼できる会計ソフト運用体制を作りましょう。

データ保護とバックアップ体制の強化

3. データ保護とバックアップ体制の強化

日本企業において、会計ソフトを安全に運用するためには、データ保護とバックアップ体制の強化が不可欠です。特に個人情報保護法やマイナンバー制度など、日本特有の法令を遵守することが求められています。

データ保護の基本ポイント

会計ソフトのデータは社内外からの不正アクセスやサイバー攻撃による漏洩リスクがあります。下記のポイントを押さえて対策を実施しましょう。

チェックポイント 具体例
アクセス権限管理 必要な担当者だけが会計ソフトへログインできるようにユーザーごとの権限設定を行う
通信の暗号化 SSL/TLSによる通信暗号化を徹底し、外部からの盗聴・改ざんを防止
操作履歴の記録 誰がいつ何をしたかログで管理し、不正利用やミス発見時に追跡可能にする
定期的なパスワード変更 パスワードポリシーを策定し、一定期間ごとの更新を義務付ける

多重バックアップ体制の構築

予期せぬトラブルや災害時にも業務継続ができるよう、多重バックアップは不可欠です。以下は日本企業でよく実践されている方法です。

バックアップ方法 特徴・メリット
クラウドバックアップ 地震や火災などオフィス被災時もデータ消失リスク軽減。自動で毎日バックアップされるサービスが主流。
外部メディア保存(USB/HDD等) 物理的な隔離でサイバー攻撃時にも安全性が高い。重要データのみ定期保存。
遠隔地への分散保存 本社以外に支店やデータセンターへコピー。大規模災害への備えとして有効。

リカバリ対策の実践例

万一データが消失した場合でも迅速に復旧できる仕組み作りが重要です。例えば、毎月1回「バックアップデータ復元訓練」を実施して、実際にどれくらいの時間で復旧できるか確認している企業も増えています。また、復旧手順書を作成し、担当者が迷わず対応できるようマニュアル整備も進めましょう。

まとめ:日常的な運用ルールづくりが鍵

セキュリティは一度導入すれば終わりではありません。日々の業務フローに合わせてデータ保護とバックアップ体制を見直し、継続的な改善活動を行うことが、日本企業には求められています。

4. アクセス管理・権限設定のベストプラクティス

ユーザー認証の重要性

会計ソフトを安全に運用するためには、まず「誰が」「どの範囲で」アクセスできるかを明確にすることが不可欠です。日本企業では、社員数や部門ごとに役割が異なるため、ユーザーごとに適切な認証方法を設ける必要があります。一般的な認証方法としては、以下のようなものがあります。

認証方法 特徴 日本企業での実用例
ID・パスワード方式 最も一般的。定期的な変更が必要。 全社員への基本設定として利用。
二要素認証(2FA) セキュリティ強化。スマホやメール連携。 経理部門や管理職のみ導入例増加中。
ICカード認証 物理カード利用で社内限定アクセス。 大手企業や金融機関で採用実績あり。

パスワード運用の現場対策

パスワードは「使い回し禁止」「定期的な変更」「推測されにくい文字列の設定」が基本ですが、日本の現場では次のポイントも重要です。

  • 初期パスワード配布後、必ず本人による再設定を義務付ける
  • パスワードをメモ帳や付箋などに記載しないよう教育徹底
  • 退職者や部署異動者のアカウント即時削除フロー整備
  • 年1回以上の棚卸し(アカウント使用状況チェック)実施

責任の明確化と操作履歴管理

日本企業では「誰が何をしたか」の記録が非常に重視されます。これにより、不正防止だけでなく、万一トラブル発生時にも迅速な対応が可能になります。

チェックポイント 具体策例
操作ログ保存期間 最低1年間分は保存推奨。監査対応も考慮。
閲覧・編集権限分離 入力担当・承認担当で分けて設定。内部統制強化。
定期的なログ確認体制構築 月1回のレビュー、異常操作検知時の即報告ルール作成。

まとめ:日系企業向けチェックリスト例

項目名 具体的な実施内容例
ID・パスワード管理ルール整備 運用マニュアル作成と周知徹底、定期見直し実施。
アクセス権限定期棚卸し 人事異動・退職時即時反映、年次点検ルール化。
操作履歴保存と監査体制整備 ログ管理責任者設置、監査法人との連携体制構築。
教育・啓発活動継続実施 新人研修への組み込み、eラーニング活用など。

5. クラウド型会計ソフトのセキュリティ留意点

日本企業においては、クラウド型会計ソフトの利用が急速に拡大しています。しかし、利便性と引き換えに「どのようなセキュリティ対策が講じられているか」をしっかりと確認する必要があります。ここでは、実務担当者が押さえておくべきベンダー選定基準やサービス安全対策について、現場目線で整理します。

クラウド会計ソフト選定時のポイント

チェックポイント 具体的内容 確認方法・注意点
データセンターの所在地 日本国内のデータセンターを利用しているか 個人情報保護法対応や災害時のリスク分散も考慮
暗号化技術 通信・保存時ともに十分な暗号化(SSL/TLS, AES等)がされているか ベンダー公開情報や第三者評価をチェック
多要素認証(MFA) ID・パスワード以外の認証方式が導入されているか 管理者・一般ユーザー両方で設定可能か確認
監査ログ機能 誰がいつ何を操作したか履歴が残る仕組みがあるか 不正アクセスや内部不正抑止に有効
SLA(サービスレベル合意)・サポート体制 障害発生時の復旧対応・問い合わせ対応など明示されているか 日本語サポート、運用マニュアルも要確認
ISMS/ISO27001等の認証取得状況 情報セキュリティ管理体制が国際標準で保証されているか 公式サイトや契約前資料で確認可能
バックアップ体制・データ消失リスク対策 定期的な自動バックアップや障害時復旧手順が整備されているか 自社で追加バックアップ取得可否も要検討
契約終了時のデータ取り扱いルール 退会後や契約終了後、データ削除や返却方法が明記されているか 業界ガイドライン準拠であることを推奨

実務担当者が気を付けたい運用面のポイント

  • 定期的なアクセス権限見直し:退職者や異動者のアカウント管理を徹底し、不必要な権限は即削除しましょう。
  • パスワードポリシー設定:8文字以上、大文字小文字・数字・記号混在等、日本企業独自の運用ルールも検討しましょう。
  • 従業員向けセキュリティ教育:SNS投稿禁止やフィッシング詐欺対策など、現場で起こりうるリスク事例を共有しましょう。

現場から見たクラウド型会計ソフト活用のヒント

日本では中小企業から大手まで「コスト削減」「テレワーク推進」の観点からクラウド型会計ソフトへの移行が増えています。ただし、ベンダー任せにせず、自社内でも最低限のセキュリティガイドラインを設け、運用フローに沿って定期的なチェックを実施することが、安心して活用する鍵です。

6. 従業員教育とインシデント対応フロー

日本企業における従業員教育の重要性

会計ソフトのセキュリティ対策を強化するためには、技術的な対策だけでなく、従業員への教育も欠かせません。特に日本企業では、上下関係やチームワークを重視する文化が根付いているため、全員が協力し合ってセキュリティ意識を高めることが求められます。
例えば、「自分だけは大丈夫」という油断や、「上司が言うなら問題ないだろう」という思い込みがトラブルの引き金になるケースもあります。そのため、定期的な研修やOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)、eラーニングなど多様な手法で、日常業務に落とし込んだ形の教育が有効です。

日本企業向け従業員教育手法の比較

教育方法 特徴 メリット 注意点
集合研修 会議室などで一斉に受講 一体感が生まれる
質問しやすい
時間調整が難しい
準備工数がかかる
OJT 実務と並行して現場指導 実践的で覚えやすい
現場課題に即対応可
指導者の質に依存
属人化リスクあり
eラーニング ネット経由で個別学習 隙間時間で受講可
進捗管理しやすい
自己管理力が必要
対話不足になりがち
ポスター・社内掲示物 職場内に啓発資料を貼付 繰り返し目につく
低コストで実施可能
慣れてしまうと効果減少

インシデント対応フローの構築ポイント

どんなにセキュリティ対策を行っていても、万一のトラブル(情報漏洩や不正アクセスなど)は起こり得ます。そんな時、日本企業としては「迅速」「正確」「誠実」な対応が信頼回復のカギとなります。
あらかじめインシデント発生時の対応フローを整備し、定期的に訓練しておくことが重要です。

インシデント対応フロー例(会計ソフトの場合)

ステップ 主な内容
1. 発見・通報 異常を発見した社員は速やかに上司または情報システム部門へ報告。
2. 初動対応 ID停止やシステム遮断など被害拡大防止措置を即実施。
3. 調査・分析 原因究明と影響範囲の特定。第三者機関への相談も検討。
4. 報告・連絡 経営層への報告、お客様や取引先への説明準備。
5. 再発防止策の実施 ルール改善、追加研修、技術的な補強などを実施。
6. フォローアップ・情報共有 教訓を全社へ展開し継続的な改善につなげる。
ポイント:日本らしい丁寧なコミュニケーションと説明責任

インシデント発生時には「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)の徹底が不可欠です。また、関係各所への誠意ある説明や謝罪も日本企業では特に重視されます。普段からコミュニケーションを大切にする文化を活かし、緊急時にもスムーズな連携ができるよう備えておきましょう。